world / Article
易経と八卦 — 中国最古の占筮書
亀甲のひび割れから始まり、六十四卦の思想書になるまで。
易経(周易)は、中国の占筮書です。占いの書でありながら、のちに儒教の経典(経書)のひとつに数えられ、思想哲学の書として読まれるようになりました。八卦・六十四卦という構造を持ち、「陰陽」という考え方の源になっています。この記事では、何が確認できる事実で、どこからが伝承なのかを分けて整理します。
起源:亀の甲羅を焼く卜から
易経の起源は、殷(商)の時代にさかのぼるとされます。殷では、亀の甲羅や獣の骨を火であぶり、生じたひび割れの形から吉凶を判断していました。これを卜(ぼく)と呼びます。甲骨文字は、その卜の記録から研究が進みました。
殷の時代には、王の祖先が神(帝)とつながり、災厄や恩恵をもたらすと考えられていました。占いは、その意志を確かめる手段でした。ここから、より単純な道具(筮竹と数)で同じ判断をする体系が生まれ、整理されていったと考えられています。
周易という名の由来
古くは『連山』『帰蔵』『周易』の三易があったとされ、連山は夏、帰蔵は殷の易と解されてきました。現存するのは『周易』のみで、これは周王朝の占い書だったとされることから、その名があります。周王朝が殷を倒したのち、殷周交代の歴史的経験と教訓を、六十四卦の卦象に重ねて総括したという説明がなされます。
つまり、易は単なる偶然の吉凶判定ではなく、「政権がなぜ交代したか」という歴史の読み方を組み込んで発展した、という性格を持っています。これが、占いの書が思想の書へ変わっていく下地になりました。
構造:八卦と六十四卦
易の基本単位は、陰(− −)と陽(—)の2種類の線です。これを3本重ねたものが八卦、6本重ねたものが六十四卦です。8×8=64通りになります。
| 名称 | 構成 | 数 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 爻(こう) | 陰または陽の1本の線 | 2種類 | 変化の最小単位 |
| 八卦 | 爻を3本重ねたもの | 8通り | 天・地・水・火などの性質 |
| 六十四卦 | 爻を6本重ねたもの | 64通り | 具体的な状況と助言 |
| 十翼 | 卦を解説する10篇の注釈 | 10篇 | 占いの書を思想の書にした |
六十四卦には、それぞれ卦辞(判断の言葉)が付き、6本の線の1本ずつに爻辞(説明)が付きます。64×6=384の爻に言葉がある、という構造です。
誰が作ったのか:伝承と学術の違い
八卦を最初に創ったのは、伝説上の中国最古の三皇の一人、太昊伏羲氏(たいこうふっくし)であると伝えられています。さらに、周の文王が殷の紂王に幽閉された際に八卦を重ねて六十四卦とし、各卦に卦辞を付したとも伝えられます。続いて子の周公旦が三百八十四爻に爻辞を付けた、という伝承です。
これらは伝承であり、誰がいつ作ったかを実証する資料はありません。学術的には、紀元前3世紀ごろに、儒教の教団が、周王朝の神官が占いに使っていたコードブックを哲学的なテキストとして再解釈して『易経』が成立した、という見方が示されることがあります。伏羲・文王・孔子という3人に帰する説明は、後世の整理だと考えるのが妥当です。
十翼:占いの書から思想の書へ
易経が「占いの書」から「思想哲学の書」へ飛躍したのは、十翼(じゅうよく)と呼ばれる10篇の注釈によってだとされます。陰陽の交代、変化の必然、中庸といったテーマがここで言語化され、儒家の経典としての位置を得ました。
この過程は、当サイトにとって示唆的です。同じテキストが、使う人と時代によって、判断の道具にもなり、思想の教科書にもなる。易経は、その二面性を最も長く保ってきた例です。
暮らしで使うなら
易を実際に使うには、筮竹やコインで卦を立て、六十四卦の言葉を読む手順を踏みます。ただし、当サイトは手順の再現をすすめていません。理由は、六十四卦の解釈が流派とテキストで大きく分かれ、当サイトが正しさを保証できる範囲を超えるからです。
- 易の言葉を「今日の心がけ」として読む分には、出典を確かめれば問題ありません。
- 卦の吉凶を、医療・健康・金銭・法律の判断に使わないでください。
- 「易経がこう言っている」と断定する場合は、どのテキストのどの卦かを示してください。同じ卦でも解釈が分かれます。
この記事の立場 殷の卜・甲骨文字・『周易』の成立・十翼の位置づけは、外部の解説を出典として示しています。伏羲・文王・周公・孔子に帰する説明は伝承であり、実証されたものではありません。卦の解釈は流派により異なるため、当サイトは断定しません。
よくある質問
易経と八卦は同じものですか。
八卦は易の構造の一部です。爻を3本重ねた八卦をさらに重ねたものが六十四卦で、易経はその六十四卦に言葉を付けたテキストを指します。
易経は宗教ですか。
儒教の経典のひとつに数えられますが、それ自体は占筮書として生まれました。占いの道具と、思想の書という2つの性格を併せ持っています。
占いとして当たるのですか。
当サイトは易の的中を検証した研究を確認できていません。判断の道具としての歴史的な位置づけと、思想としての内容を分けて扱っています。
中国では今も使われていますか。
易経は中国の古典として広く読まれています。数術(術数)と呼ばれる体系の中に位置づけられ、占いだけでなく哲学・医学・兵法などの言葉の基盤にもなっています。
まとめ
易経は、亀甲のひび割れという最も素朴な占いから始まり、陰陽と変化の思想を経て、三千年にわたって読まれ続けてきました。当サイトが学べるのは、吉凶そのものより、「物事は必ず変わる」という前提の置き方です。行き詰まりは固定した状態ではない、という見方を、最も古い占いがすでに持っていました。
この記事の立場 研究結果や暦の定義は出典を明記しています。効果の断定や、医療・健康・金銭・法律の判断を置き換えることはしません。
出典
- Wikipedia「易経」(成立・構成・経書としての位置づけ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%93%E7%B5%8C(2026-09-28 取得) - 易(易経)の歴史と思想(殷・周の時代背景と八卦・六十四卦)
http://chugokugo-script.net/rekishi/eki.html(2026-09-28 取得) - 易占・易経の歴史(殷における祖先神と占いの関係)
https://www.ekigaku-shinkou-kyoukai.jp/history/(2026-09-28 取得) - 『易』成立をめぐる記述(周王朝の神官のコードブックの再解釈という見方)
https://www.isc.meiji.ac.jp/~katotoru/20220204.html(2026-09-28 取得) - 百度百科日本語版「易経」(連山・帰蔵・周易の三部構成)
https://baike.baidu.com/ja/item/%E6%98%93%E7%B5%8C/1114908(2026-09-28 取得)
注記 八卦・六十四卦の意味づけの一部、および「暮らしで使うなら」の3項目は当サイトが整理した内容です。伏羲・文王・周公・孔子に帰する作者説は伝承で、実証されていません。
関連する読みもの
今夜の巡り道
星を読む → 夢を調べる → 心を整える。この順に意味があります。